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【映画】ムンバイ同時多発テロを描いた実話系スリラー「ホテル・ムンバイ」【ネタバレ感想】

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「ホテル・ムンバイ」(2019年)★★★★☆

2008年にインドのタージマハルホテルで起きた無差別テロ事件を題材にした映画。

日頃から実話系やドキュメンタリー好きを自認している以上、映画館で観ないわけにはいきません。

早速、行ってきました。

予告編はこちらです。

それではネタバレ感想に移ります。

(とはいえ、史実にある事件なので最初からネタバレのようなものですが。)

 

この作品、テロを扱う以上、全編に渡って人の命が軽いです。

訓練を受けた若い兵士、それはイスラム原理主義者を指しますが、アサルトライフルを躊躇なく乱射していくあたり、唐突に崩壊する日常に一般市民は成す術がありません。

実話ベースということで、僕もグロ描写には相当な覚悟をしていましたが、そういった凄惨な場面は意図的に避けているようでした。

むしろ、製作者が訴求したかった部分は、宿泊客を守ろうとするホテルマンの姿であったり、人質に取られた家族の奮闘や、先ほどのイスラム原理主義者が苦悩する場面など、人間の心象に与するところだったように思います。

実際のところ、緊迫感のあるスリラー的な演出によって、こうした人間ドラマ的な背景がより一層浮き彫りとなりまして、最終的には映画というエンタメに昇華されたとも言えるでしょう。

もちろん、ハッピーエンドではありませんでしたが、鑑賞後の気分は憂鬱で重苦しいだけのものではありませんでした。

 

ひとえに、テロはなぜなくならないのでしょうか?

9.11から18年も経過したのに、なくなるどころか増えているぐらいです。

例えば貧富の差など、民主主義及び自由経済社会の負の側面もあるでしょう。

そしてキリスト教イスラム教をはじめとする宗教対立、これも見逃せないですよね。

でもそういった観念的な部分よりも「テロリストの多くは若い人間である」という歴然の事実を淡々と描いた本作には、大きな意味があると思います。

劇中では「少年」とも語られていましたが、テロを企てる人間にとっては、非常に洗脳しやすいターゲットと言えるのではないでしょうか。

この少年たちにも家族がおり、恐らく貧困にあえぐ中でテロ組織に身を落としたのでは、、、という示唆が本編でも描写されておりました。

そこには宗教における原理主義的なバックボーンよりも、家族にお金を渡したい=家族の暮らしを良くしたい、という子供らしい純粋で優しい感情が根底にあったように思います。

果たして、テロリストも我々と同じ人間であるという事実です。

この映画の核心って、恐らくその辺にあるんじゃないかなと僕は思いました。

 

余談ですが、昔よりも減ったとはいえ、なぜヤクザがヤクザを辞めないのでしょうか?

それはまさしく、ヤクザは「ヤクザをやらざるを得ない環境」がそこにあるからです。

恐らく若いテロリストにもそうした環境圧力があって、やらざるを得ない状況に追い込まれてしまっているのではないでしょうか。

 

では、何が彼らをそこまで追い込んでいるのか、ということです。

冷戦後、世界は民主主義や自由経済がベストではないけど、ベターだという判断をしました。

それによって為政者のみならず市民は、戦争や紛争がなくなるものと思っていた。

ところが、です。

9.11を起点に、世界規模でテロリズムが勃発してしまいました。

そこには前述した宗教観の違いもありますが、やはり実体経済であるところの、格差社会への対応が地域によって異なっていたということもあるでしょう。

先進国である欧米が南半球の途上国から収奪してきた歴史も踏まえると、この問題は根が深いと言わざるを得ません。

映画の舞台となったインドも、近年発展著しい新興国であり、今般の首謀者は隣国パキスタンに潜伏していると聞きます。(首謀者は未だに捕まっていない。)

陸続きの隣国でさえも、同じ価値観を共有出来なかったという悲しき現実。

海を隔てて、日韓で対立する我々も、決して他人事ではないと考えさせられます。

 

映画の話に戻ります。

本作は冒頭から終盤まで、緊張の糸が張りつめており、重ねて申し上げますが、スリラー的な面白さがあります。

ヒーロー系アクション映画にあるような、ご都合主義なども一切ありません。

当然ですが、実話に基づいているので、登場人物はいとも簡単に死んでいきます。

(起死回生の一発逆転など、現実ではなかなか起こらないのです。)

描写は抑えていますが、そうした凄惨な現場に目を背けたくなることもあるでしょう。

ただ、テロそれ自体は日本でいつ起きてもおかしくないことで、実際にオウム真理教の事件は未だ記憶にも新しいところです。

思えばあの事件も、若い信者たちが実行犯ではなかったでしょうか。

そのような精神的に成熟していない者を、国が、学校が、地域が、家族が、どこまで寄り添って、支えなければならないのか。

改めて、テロ事件が社会に突き付けているのは、現代の価値観への警鐘です。

このまま臭いものに蓋をするのか、それとも社会の軌道修正を願って何らかの行動や思考をするのか、それは本作を鑑賞した個々人に委ねられているのです。

個人的には、大変勉強になる作品でした。

役者の演技も良かったと思います。

やや脚色が強い演出や台詞もあったりして、そこが少し気になったぐらいですね。

とはいえ、ディスカバリーチャンネルなど、再現ドラマ系が好きな方はぜひお見逃しなく。

(意外や意外、音楽も素晴らしかったですよ。)