【ドラマ】第二次世界大戦の史実を基にした「バンド・オブ・ブラザース」が伝えたもの【12月8日は太平洋戦争の開戦記念日】
「バンド・オブ・ブラザース」★★★★★
本作は、2001年製作のテレビドラマシリーズです。
そのうち紹介したいと思いつつ、年月が経ってしまいました。
ちょうど本日は開戦記念日ですので、当ブログでも取り上げてみます。
まずは、概要から。
本作はスティーヴン・エドワード・アンブローズという歴史作家による原作がベースとなっています。
それをスティーヴン・スピルバーグとトム・ハンクスが製作総指揮として、BBCとHBOの共同出資で映像化されました。
その製作費、日本円にして約100億円。
本作は10話で完結(1シーズンのみ)しますから、1話あたり10億円の計算です。
ちなみに時代を席巻した「24」ですら、1話あたり4億円でしたからね。
2001年当時、ここまで巨額の費用を投じたテレビドラマは他になかったと思います。
さて、本作の舞台となるのは、第二次世界大戦です。
特にノルマンディー戦やマーケット・ガーデン作戦など、欧州におけるアメリカ軍(連合軍)対ナチス・ドイツ軍との戦闘を描いています。
画面の主軸となるのは、アメリカ陸軍・第101空挺師団・第506パラシュート歩兵連隊・第2大隊E中隊に所属する兵士たちです。(劇中では「E中隊」と呼ばれています。)
このE中隊は、パラシュート歩兵連隊とあるように、敵地の前線にパラシュートで降下する歩兵部隊で、その任務の危険性から非常に高い練度を要求されます。
従って、1話目から陸軍基地でのハードな訓練風景が繰り広げられているのです。
本作はあくまでもグランド・ホテル方式、つまり群像劇というスタイルなので、全話を通して様々な兵士にスポットが当たりますが、一応の主役的存在として、E中隊を率いるリチャード・ウィンターズ少佐(最終階級)が挙げられます。
もちろん、実在した人物です。
これをイギリス出身の俳優、ダミアン・ルイスが演じております。
ちなみに日本語吹替は役所広司が担当。
役者の演技もさることながら、役所の吹替もとても良いです。
(例えば目まぐるしく戦況が変わるシーンでは、字幕を追うのに大変苦労しますので、本作については吹替版での鑑賞をお勧めしておきます。)
本作の見どころは、何と言いましても臨場感あふれる戦闘シークエンスにあります。
これについては、1998年公開映画「プライベート・ライアン」で徹底したリアリズムを追求したスピルバーグの存在が大きいですね。
あの映画も第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を舞台としておりましたので、未だ記憶に残っている方も多いのではないかと思います。
ちなみに「プライベート・ライアン」のオマハ・ビーチでの演出は、映画史に残る20分間としても有名です。
(ちょいちょい編集されてますが、Youtubeにあった動画を貼っておきます。)
ところで、テレビドラマが映画と決定的に違うのは、時間的制約の幅にあります。
(映画館での上映云々については、後日別の機会で取り上げるつもりです。)
映画は長くても3時間、大体が1時間半から2時間程度の尺であるのに対して、テレビドラマはシリーズとして話が連結していきますから、1話1時間としても、10話で10時間の尺が与えられる計算です。
これが果たしてどのような影響を及ぼすかということですが、単刀直入に言って、尺の長さは表現の幅を広げます。(もちろん、逆に冗長となるリスクもあります。)
先ほど、本作は群像劇という言葉を使いましたが、尺が長い分、様々な兵士にスポットを当てることが可能となるわけです。
例えば、第4話の「補充兵」や第6話の「衛生兵」などは、かつての戦争映画の中では間違いなく脇役的な存在です。
しかしながら、本作ではそうした地味な脇役達にも主役級のポジションを与えています。
これが「バンド・オブ・ブラザース」の最大の功績であり、見どころなのです。
余談ですけど、戦争をモチーフにしたゲームの世界でも、例えば衛生兵の視点で描かれた作品は皆無ではないでしょうか。
もちろん、「バトルフィールド」シリーズなどのマルチプレイでは、衛生兵を選択して遊ぶことは出来ますが、ストーリーのキャンペーンにおいて衛生兵が主役など聞いたことがありません。(あったらごめんなさい、僕の知識不足です。)
狙撃兵、いわゆるスナイパーが主役のフランチャイズはある程度の成功を収めておりますが、個人的には衛生兵として戦場で負傷した兵士を助けるゲームもぜひやってみたいところです。
(数多ある戦争ゲームが単純な殺し合いのみならず、人を助けるというところに意義を見出しても良い気がします。)
普段からFPS好きの皆さんも「Call of Duty : Medic」みたいなキャンペーン、もしあったらやってみたいですよね?
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話が逸れました。
「バンド・オブ・ブラザース」もリアルな戦闘描写に気を取られがちですが、中身は戦場に赴く兵士達の心理的な葛藤をメインに描いています。
そこにはトム・ハンクス流のエモーショナルな人間ドラマがあり、果然に映像表現はスピルバーグのリアリズムが支えています。
(特に第9話「なぜ戦うのか」のエピソードは、スピルバーグが最も伝えたかった戦争の深淵たる部分だと思います。)
改めまして、この製作総指揮のタッグは最強ではないでしょうか。
当時の戦地の状況を、子細に現代へ伝えるという作品の目的は、十二分に果たしているように思います。
ちなみにこの最強タッグ、トム・ハンクスとスピルバーグはその後も「ザ・パシフィック」という太平洋戦争を舞台にしたテレビドラマシリーズを製作しています。
(12月8日という今日、本来ならそちらを紹介するのが筋かもしれませんが。)
最後に、良質な戦争ドラマ(映画)とは一体何なのか、考えてみましょう。
(銃や戦車といった兵器プロダクトの魅力については、一旦横に置きます。)
僕が思うに、反戦思想はもちろんのこと「人は同じ過ちを繰り返す」という諸行無常に通じる虚無を伝えることが、戦争エンタメたらしめるのではないでしょうか。
後述しますが、戦争がなぜ不毛な争いと呼ばれるのか、ということにも通じます。
加えて、ほとんどの戦争映画は戦勝国によって描かれたものという客観的な事実も見逃せません。
そこで都合の良い歴史的な改変や愛国的な視点ばかりに偏った内容ですと、上記の価値を見出すのは難しくなるでしょう。
その点、本作「バンド・オブ・ブラザース」では、各話のオープニングに実際の兵士達が登場し、当時の戦況を回想するインタビューが挿入されています。
まさに戦地に赴いた者しか分からない、そして生存した者にしか分からない、貴重でリアルな体験談です。
こうした肉声を基に脚本が装丁され、このように映像化されたことを思うと、本作の意義や価値について、語らずにはいられません。
何よりも大事なことは、総じて人間社会とは、先人の犠牲の上に成り立っているという事実です。
結局のところ、過去の戦争を知ることは「今を生きること」に重要な意味を持つのです。
一方で、反戦思想というものが半ば形骸化しつつある現実も本稿では確認しておきたいと思います。
というのも、9.11の同時多発テロを発端にしたアメリカによる”復讐戦”は未だ終わっていないからです。
これは誇張した話でもなく、現にアフガニスタンは未だ戦火の途上にあります。
アメリカが現地に派兵して20年近くなりますが、未だに対テロ戦争は終わっていません。
(2019年12月4日、アフガニスタンの復興に尽力していた日本人の中村医師が射殺されてしまいました。武装集団の詳細は現時点では不明です。)
また、中国共産党によるウイグル自治区など少数民族への武力的及び精神的な弾圧、騒乱極める香港、そしてカシミール、シリア、ナイジェリア、ソマリアにウクナイナ、それからメキシコの麻薬戦争なども武力紛争の1つとして数えられるでしょう。
いかがですか。
2019年現在でも、世界では30前後の戦争が起こっているという現実です。
国同士の戦争は「文明の衝突」とも言われておりますが、抜本的な解決策は未だ見当たらないのです。
そうした現実の社会に生きていることを、僕も含めて、日本人の多数は対岸の火事程度にしか見ていません。
(これはもちろん、国境が陸地に存在しない島国であること、そしてアメリカ合衆国の保護(核の傘)を受けていることが要因ですので、ある意味では仕方のない話です。 )
ですから一口に反戦と言いましても、文明の衝突を避ける、もしくは衝突を緩和させるような方法が見つからなければ、絵に描いた餅に過ぎないのです。
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だからこそ、本作のような戦争エンタメとしてのドラマや映画は重要だと考えます。
「バンド・オブ・ブラザース」は第二次世界大戦を描いておりますけれども、こうした戦地の状況は、今現在も世界のどこかで頻発し、継続しているのです。
戦地では、反戦思想や人権主義は何の役にも立ちません。
自分や味方が死なないために相手を殺す、そして上官の命令に従う、ただそれだけです。
本作も歩兵連隊という前線に配属される陸軍兵士にフォーカスしているので、如実にそれが伝わってきて、思わずこちらも胸が痛みます。
彼らには親兄弟や妻、そして子供が故郷にいて、しかし敵軍兵士にとってもそれは同じだからです。
(実際に、スピルバーグはそういう撮り方、見せ方をしています。以下のYoutube動画を参照してみてください。)
改めて本作は、戦場における兵士の絆はもとより、戦争の意味や意義までも問いかけた作品と言えるのではないでしょうか。
ぜひこれを機会に、未見の方は鑑賞してみてください。
相対的に、平和とは何かということを考えるきっかけになるかもしれません。
2019.12.8.