明日の叙景『Think of You』が奏でるJ-POP×メタルのシンクロニシティ
「Think of You」by 明日の叙景
J-POPとメタル、その接点の必然
J-POPの豊かな旋律と、メタルの持つ獰猛かつ暴力的衝動。
この2つの相反する要素が交わる必然はどこにあるのか。
メンバーの等力(Gt.)氏は「メタルとはハイゲインギターというテクスチャを核に持つ音楽」と定義し、構造(ストラクチャ)や文脈(コンテキスト)は自由だと語る。
これにより、切り立った硬質なメタルの音像に、或いは透明なJ-POP的旋律を流し込むこともできるという極めて明快な思想が姿を現す。
果たしてこの野心的とも言える思想は、前作『アイランド』にて実践されたのは言うまでもない。
J-POPとメタルという、一見すると相反する2つの要素が感情曲線として交差することで、楽曲に緊張感と没入感をもたらすことに成功したのだ。
近年、こうしたJ-POPとメタルの融合に成功したBABYMETALの例を挙げるまでもなく、時代が彼らを迎えたのか、それとも彼らが時代を切り開いたのか、何れにしても必然的な邂逅が行われたのは確かである。
少なくとも明日の叙景によって、その異形なるJ-POPの姿が全貌を現したと言っても過言ではない。
『アイランド』から『Think of You』への変化
前作『アイランド』は「J-POP?それともブラックメタル?」というコピーで、ジャンルの境界線を踏み越えていった作品だった。
テーマは“点”=自己探求。
それはまるで断崖絶壁の孤島に立つ灯火のように、明日の叙景の存在意義を強くアピールするものだった。
一方、新作『Think of You』は“線”=他者との関係性をテーマに据えた作品である。
「君が笑ってくれるなら、僕はJ-POPにもメタルにもなる」というコピーは、ジャンルの融合それ自体を肯定も否定もしていない。
そこにあるのは、静かな情熱、要は音楽へのひたすらにひたむきなまなざしだ。
明日の叙景が今のシーンにおいて一目置かれているのは、一定方向に傾き過ぎないフラットな姿勢である点が大きい。
さらに言えば、前作が夏という季節感だったことに対して、本作のコンセプトは冬である。
教会や天使といったモチーフは繊細で儚いものだが、メロディックデスメタルが北欧の地で産声を上げたように、ソリッドで硬質なメタルサウンドと冬は非常に相性が良い。
コンセプトの勝利とまでは言わないが、本作が約束された傑作という評価はこの時点で揺るぎないものだ。
冬の景色に潜むエクストリーム
期待通り、『Think of You』は前作『アイランド』同様に聴きやすい。
表層にあるポップさとは裏腹に、刃のように鋭いエクストリームが同居しているのも前作の延長線上にある。
全編を通して、シングルPUで増幅された硬質なギターリフが、まるで都市高速のジャンクションのように複雑に絡み合って疾走していく。
例えばSuede初期の楽曲にみられたような、印象的なフレーズを組み合わせたギターバッキングはドラムやベースとのコントラストも効いていて心地良い。
以前から指摘していることだが、彼らに関しては、メタルからの影響よりもUK Rockからの影響の方が強いのではないかと思う。
一方でポストブラックメタル、或いはブラックゲイズとも称される彼らだが、清涼感あふれる後味は極めて日本的であり、J-POPとの親和性を改めて示したとも言える。
例えばそれは、アルバム中盤の「天使」が分かりやすいだろうか。
静謐なイントロから一転、感情が爆ぜていくビルドアップ感。
それはまるで雲間から射す冬の陽光のように、J-POP特有の爽やかな余韻を残していく。
古今東西、長くJ-POPとヘヴィメタルを愛聴してきた私だが、こんなバンドサウンドは稀有である。
融合の先にある“シンクロニシティ”の音楽
前作『アイランド』における国際的な高評価は、決してジャンルがクロスオーバーした珍しさだけではなく、多文化共生を核とした音楽本来の核心に海外リスナーも共鳴したからにほかならない。
国内外問わず、ジャンルの融合はリスナーの融和を促すものであり、社会の分断が叫ばれる混沌とした今の時代だからこそ、その支持を拡大したという側面も否定は出来ない。
恐らくは日本のみならず、世界のどこかでこのサウンドを求めていた人は多いはず。
つまり、本作『Think of You』が誘発したシンクロニシティは決して偶然ではなく、必然として今リスナーの前に鎮座している。
そして、最新の明日の叙景が、最高の明日の叙景であることの証明としても。
前作に引き続き、本作も日本の音楽史に残るであろう、傑作である。
ファンならずとも、この甘美で暴虐な世界観は長く耳に残るだろう。

