【映画】心を燃やせ!「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」【ネタバレなし】
「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」(2020年)★★★★★
巷で社会現象にもなっておりますが、ようやく映画館で鑑賞してきました。
ちなみに原作は未見です。
アニメ版は全て鑑賞済み。
まずは予告編を掲載しておきます。
はじめに、アニメ版の続きとしてこの劇場版がありますので、いきなり劇場版を鑑賞することはお勧めしません。
少年漫画ですから、登場人物は限られていますし、初見でも大体の意味は分かりますよ?
でも物語の奥行きが見えてこない時点で、非常にもったいないです。
まず先に、全26話のアニメ版をご覧になって頂きたいと思います。
(何よりも、初見だとあの猪は何?ってなります。)
個人的な話になりますが、僕はアニメ版を今年の春先に見て、何だか鬱っぽいシナリオだなあと思って途中で観るのをやめておりました。
その後、リアフレに何度も勧められたので、改めて真面目に拝見した次第。
結果、劇場版は劇場で観るべき、と自分の中で決断したところであります。
普段からエログロ・スプラッターホラー好きを公言し、精神的に危ないキャラを演じている疑惑もあるNEODEADことワタクシですが、こういった娯楽アニメ系でも話題作は必ずチェックするようにしております。
というのも、近年のアニメ作品のクオリティって、本当に質が高いんですよね。
映像美はもちろんのこと、キャラクターの描写や所作にもいい加減なところが少ないです。
神は細部に宿ると言いますが、監督や原作者などの作家性が露わになっているのも、大人がハマりやすい、魅力的な原因の1つかと思われます。
ということで、本題に入りますが、今回はネタバレを極力しないように感想をまとめます。
というのも、ネタバレしないで観た方が僕は楽しめたからです。
従って、原作さえも読まない方がいいです。
(繰り返しますが、アニメ版のみ、今すぐに全話チェックしてください。)
本作は少年ジャンプでの連載をきっかけに、アニメ版が製作され、人気が爆発したところで、この劇場版が封切られました。
少年ジャンプは、昔から「友情・努力・勝利」がテーマであることは有名です。
僕の世代だと、やはり「キン肉マン」や「ドラゴンボール」は名作ですね。
それらに比べると、この「鬼滅の刃」に関してはかなり現実味を帯びた脚本と言えます。
舞台設定が大正時代というのを考えても、果たしてファンタジーな空想物語ではなく、この辺は「ゴールデンカムイ」と同様に、日本的ノスタルジックな琴線を刺激する、近現代をフューチャーした作品ということが言えると思います。
特に主人公を長男と設定したことは、この劇場版でも効果的に描写されていますね。
そもそも、長子相続とは明治政府が法律で定めたことでもありますから、今の日本人の感覚にも自然にフィットすると思われます。
そのため、日本に何千万人いるのか分かりませんが、僕みたいな長男坊には決して無視することの出来ない作品と言えるのではないでしょうか。
(思えば「北斗の拳」でも長子相続が1つのポイントになっていたように回想します。)
劇場版の主役的存在でもある煉獄杏寿郎も、主人公と同じく長男という設定であり、その責任感の強さ、そして家族想いのひたむきさは、スクリーンを通して胸にザクザクと突き刺さってきます。
彼の明朗で快活な台詞からも、素晴らしい剣士の片鱗を感じることが出来るでしょう。
俺は俺の責務を全うする!ここにいる者は誰も死なせない!!
そうなんです、この「鬼滅の刃」という作品は言葉の選び方、使い方が至極的を得ています。
言葉の力によって、それが各キャラクターに躍動感を与えていることはもちろん、交錯する心理描写にもかつてない奥行きを与えています。
従って、本作の魅力とは何か?
そう問われれば、間違いなく僕は「言葉」だろうと、、、そう思うんですね。
ただこれは、鑑賞して頂かないと俄かには伝わらない部分でもあります。
加えて、肝心のアニメーションに至っては、アニプレックス(ufotable)という名門スタジオが手掛けているわけですから、ビジュアルの美しさ、特に戦闘シークエンスのクオリティは目を見張るものがありました。
古来より、剣劇をモチーフにした作品は数多ありますけれども、その中でも非常にカタルシスの強い描写が連発され、これは神回と呼ばれたアニメ版の19話を自然に彷彿とさせます。
「君の名は」でも同様に、カタルシスというのは今のアニメ制作の現場において、最も重要なキーワードではないかと僕は勝手に考えています。
こうしたヒット漫画の典型ですが、敵キャラクターの憎たらしさも見逃せません。
と同時に、憎めない部分もあって、この辺の清濁併せ呑む感じ、嫌いじゃないです。
主人公には主人公の都合があり、敵には敵の都合があるわけで、この感覚は「夏目友人帳」や「うしおととら」のファンなら違和感なく作品の世界に入り込むことが出来るでしょう。
特に終盤で登場する敵はまるでフリーザのような強さを誇り、そのインフレした戦闘能力には絶望的な終末感が漂います。
そこからのカタルシス、、、というのが見どころなのですが、ただのカタルシスじゃないんです。
これはもう、その曇りなき眼で結末を観てもらうしかありません。
結果として、大満足の作品となりましたし、エンタメとしても十分に楽しめました。
あえて苦言を呈するなら、ファンの多い冨岡義勇の場面がほとんどなかったことでしょうか?
あと、欲を言えば善逸の見せ場はもう1回ぐらい欲しかったかな、と。
(個人的に、善逸が気に入っております。彼の強さはナチュラルボーンですよね?)
どちらにせよ、この秋、必見の映画であることは間違いないです。
日本アニメの最先端と言いますか、エンタメとは何かという問いに対して、直球で真っ当な満額回答をしてきた作品とも言えるでしょう。
未見の方には、ぜひ劇場でこの臨場感とカタルシスを味わって欲しいと思います。
おわりに、もっと主観的で具体的な感想も残しておきます。
僕はこの映画、コロナ禍だからこそヒットしたというのも分かる気がするんです。
今年の春先から移動や娯楽を制限され、人に会うことも少なくなり、オリンピックなど各種イベントは軒並み中止、さらには職を失う方までたくさん出てきました。
疫病による混乱は歴史上、常に周期的に出現しますが、必ず収束します。
しかし今はまだ過程の段階にあるわけですから、もちろん気を抜くことは出来ません。
そうした中でも、いやそうした中だからこそ、人は娯楽という安らぎを求めるのではないでしょうか。
この「鬼滅の刃」が一般大衆に上手くフィットしたというのは、こうした時代性を考えても、何ら不思議でも何でもないような気がします。
(もちろん、リベンジ消費という自粛への反動も含みます。)
実際に今、全国、いや世界各地の医療関係者が疲弊する中、改めてこの作品が問いかける、普遍的な人間の価値。
それを鬼という対比軸を巧みに使って、老若男女に分かりやすく仕上げているのも、単純に凄いなと恐れ入りました。
繰り返しますが、本作にあるのは言葉が持つ力です。
どんなにつらくても、前を向き、自分を叱咤激励し、努力を続ける炭治郎。
そして、柱として、仲間を鼓舞し、自身の責務を全うする煉獄。
長男坊の2人が躍動するこの劇場版、娯楽作品としてもパーフェクトではないでしょうか。
最後に、その煉獄さんの言葉でこの感想記事を締めたいと思います。
胸を張って生きろ
己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと
心を燃やせ
歯を喰いしばって前を向け
君が足を止めて蹲(うずくま)っても時間の流れは止まってくれない
共に寄り添って悲しんではくれない