【映画】絶対にネタバレしてはいけない旅館24時「若おかみは小学生!」【ネタバレ感想】
「若おかみは小学生!」(2018年)★★★★☆
運悪く、劇場まで足を運ぶことが出来なかった映画って、結構あります。
そんな時はAmazonなどでレンタル鑑賞するわけですが、今回紹介する映画もその1つです。
劇場行けば良かったです、本当に。
気を取り直して、まずは予告編から。
さて、記事タイトルにもありますように、今回もネタバレしますので、未見の方はここで読むのをお止めください。
ぜひ、本編をご覧になってからまたこの記事を読んで頂ければと思います。
さて、本作に関しては、予備知識を事前に入れないようにしておりました。
特にアニメ作品というのは作家性、いわゆる監督によってカラーリングが大きく異なりますので、なるべく先入観は持たないように努めたところであります。
(これが大正解。詳しくは後述します。)
物語は開始早々から、どえらい悲劇が起こります。
主人公となる”おっこ”(小学生の女子)が家族とドライブ中、交通事故に遭うのです。
これにより、父と母という両親を1度に亡くし、おっこは祖母が経営する老舗旅館へと移り住むことになるわけです。
この辺のスピーディーな展開は本当に確信犯的。
観客が感傷に浸る隙を全く与えません。
相対して、矢継ぎ早に登場人物を出してくるのです。
先の交通事故の影響もあってか、おっこは幽霊の存在が見えることに気付きます。
これが果たして、本作の世界観を根底で支えるテーマとなっています。
劇中に登場する幽霊たちも一様に子供の姿をしており、そこにはコミカルでピースフルな雰囲気が漂い始めます。
恐らく観客の多くは、序盤の悲劇は一体何だったんだと気を抜いてしまうことでしょう。
ところで、アニメに詳しくない僕としても、本作は各キャラが非常に立っていると思いました。
幽霊たちはもちろん、旅館で働く人々やそこに来るお客さん、そして学校の同級生たち。
全てが瑞々しく、不快なキャラクターなどは一切描かれておりません。
(一見して意地悪そうに描かれているキャラはおりましたけども。)
そして主人公おっこのひたむきで明るいキャラクターに牽引されるように、画面全体が生き生きと躍動しているようにも見えました。
ところが一転、終盤で登場する旅館のお客さんとおっこの関係性により、物語は急展開を迎えます。
この演出は不意打ちに近いほど狡猾で、観客の多くはここで涙腺崩壊のカタルシスを体験することになるかと思います。
(普段から冷静沈着な僕でさえ、もはや涙を止めることが出来ませんでした。)
これもひとえに、序盤から丹念におっこという人間性と周囲のキャラクターとの関係性を丁寧に描いてきた証左でしょう。
また、アニメらしくない(?)抑制された演出の数々にも唸らされました。
とかく、オーバーアクション気味になりがちだと思うのですが、それがありません。
総じて、1つ1つのシークエンスに違和感を感じなかったところに、果たして実写にも近い説得力を持ったのだと思います。
それにしても、本作の構成はお見事です。
序盤に目を覆うほどの悲劇が描写されるも、中盤はコミカルな演出で感傷する暇を与えず、終盤になって冒頭の伏線を一気に回収するという鮮やかな手法。
しかもこれを90分という尺でまとめているのです。
これはもうよっぽどの名監督だろうと思って調べてみたら、何と高坂希太郎監督作品。
宮崎駿監督の一番弟子とも言われる、生粋のアニメーターです。
ジブリファンには「茄子 アンダルシアの夏」の監督と言えばお分かりでしょう。
本作「若おかみは小学生!」の公開当時は、そのタイトルとポスターのイメージに観客動員が苦戦したと聞きますが、今はSNSの時代で本当に良かったですよね。
ネット上での口コミをきっかけにして、興行収入は3億円を超えた模様です。
アニメ作品であっても、映画として真っ当に評価されたのは僕も嬉しく思います。
一方で、アニメ作品だからこそ許せるという場面もありました。
特に終盤でのおっこの心情の変遷は、現代社会に照らすと少々の違和感を禁じ得ない。
(例えばそれは、被害者が加害者へ持つ心情です。)
しかしそれは、大人になってしまった僕の個人的な感想であって、闇雲におっこの心情を否定するものではありません。
この辺は様々な世代の方で、様々な感想があって然るべきかと思います。
重ねて申し上げますが、一見して子供向けアニメのような外観とはいえ、その中身は全世代が鑑賞に耐え得る作品に仕上がっておりました。
ぜひこの脚本の素晴らしさ、そして構成、さらに言えば細部まで描写された作画の凄さなど、日本が誇るアニメ作品の最前線を味わって頂ければと思います。