【書評】毎日、廃棄弁当食べてます「コンビニ店長の残酷日記」
三宮貞雄「コンビニ店長の残酷日記」★★★★☆
現代の奴隷契約
シリアルキラー*1なコンビニ店長がお客さんを拉致して地下室で拷問する、、、そんなアメリカンホラーな話ではなくて、コンビニチェーンという名の合法的な利益搾取システムの闇に一石を投じた本となります。
普段何気なく利用しているコンビニの実態が素人にもよく分かる平易な文章で綴られておりますので、比較的読みやすい部類の新書と言えるでしょう。
僕の場合、母方の実家が商店を営んでおりましたし、最近になってもコンビニオーナーと接する機会が多いので、ある程度内情は把握しておりました。
とはいえ、このような「日記」として文章を構成している以上、その事細かな描写は当事者ならではのリアリティがありますね。
特に「モンスター客」と「SV(本部の人間)」との間に挟まれたオーナーの悲哀は、決して笑い話どころではなく、今のコンビニ業界の厳しさを如実に物語っています。
そもそも、個人商店ならまだしも、今のコンビニチェーンのシステムは「自営業」ではなく、本部を頂点とする「会社の一部」に過ぎないという紛れもない事実。
つまり、現代の奴隷契約とも言うべき実態が常態化しているわけで、ブラック企業が叫ばれる昨今、大変由々しき問題でもあります。
しかも、表向きは事業主ということで、労働基準法の適用外ということも事態を悪化させているように思えてなりません。
「この点を理解せずこの世界に飛び込むと苦労しますよ」という貴重な体験談でもあります。
社会インフラという正義
それなら果たして、本部は悪者なのかと言われると、僕は必ずしもそうではないと考えます。
この巨大で阿漕な収益システムを運用することで加盟店オーナーからは批判に晒されていますが、他方、利用者の利益は担保されていると思うからです。
どなたでも、自分の家の近所にコンビニが出来れば嬉しいものです。
24時間、いつでも好きなものを買うことが出来るし、コピーやFAXも、公共料金の支払いも、コンサートや高速バスの予約だって可能です。
しかも日本では3.11の大震災を経て、コンビニが地域に貢献する側面も急速にクローズアップされてきました。
ついにコンビニが社会インフラとして認知され、そして機能する時代となってきたわけです。
ただ、こうした過剰な「お客様」目線のサービスが各店舗の重荷となっていることは事実のようです。
社会インフラという正義の名の下で、その負担が各コンビニオーナーというマンパワーに頼りすぎている部分は否めません。
つまり、誰かの犠牲の上に成り立っている利便性とも言えます。
この辺は素人なので分かりませんが、喫緊の課題として、本部からの人的な支援などがある程度必要だろうと思いました。
(オーナーが24時間以上店舗から離れると契約解除事由に該当する、という話は強烈でした。)
勝者は誰なのか
資本主義の社会においては、システムを作った側が勝者となります。
もっと言えば、システムを作ってそれを世に広めた者が富を得る仕組みです。
例えば、AppleはiTunesという音楽インフラを構築しました。
それまでのCD販売からインターネットによるDL販売という新機軸なシステムです。
消費者はその利便性とリーズナブルな価格設定を歓迎し、瞬く間に全世界に広がりました。
加えて、音楽カルチャーのグローバル化を果たしたという意味でも大きな功績と言えます。
しかし、アーティストにとってはどうでしょうか。
利益のみを考えますと、1曲売れた場合、アーティストの懐に入るお金は3円と言われています。
これについては数年前にスガシカオさんも問題提起しておりました。
要するに、DL販売ではほとんど儲からないということです。
アーティストは音楽を生業にしている以上、これは死活問題になりますよね。
昨今、音楽カルチャーが宅録で完結することの出来るエレクトリックなサウンドに比重が置かれつつあるのも、こうしたランニングコストとの兼ね合いもあると思います。
スガシカオさんのように、バンドスタイルで数週間スタジオに籠って楽曲制作する場合、あまりにもコスパが悪いのは一目瞭然です。
日本のみならず、世界的なCD不況に歯止めはかかっておらず、iTunesのようなDL販売はますます加速していくことが考えられます。
というより、今のトレンドは定額制の配信サービスが主となっており、アーティストが得られる利益はますます縮小しているのではないか、という危惧さえ感じます。
結果的に、消費者のニーズに応えたシステムを構築したAppleが勝者となったものの、音楽カルチャーの発展と進化という意味では、むしろ停滞してしまったのではないか、というのが僕の率直な感想です。
人は優しくあるべき
本書は終盤まで「モンスター客」や「SV(本部の人間)」とのやり取りが仔細に記述されており、このあたりは接客業の大変さを痛感します。
そういえば、以前、コンビニで騒いだ連中が店長を土下座させ、その様子をネットに流し、後に恐喝で逮捕された事件もありましたよね。
昔から日本では「おもてなし」というのが商売の根底にあって、それこそお客様は神様だと言わんばかりの過剰なサービス攻勢が、結果的に企業の利益拡大に繋がっていたことは言うまでもありません。
しかし、それは法律と同じく、悪用する人間、逆手に取る人間がいることも考えなければいけない。
かといって、サービスの縮小は大多数の良心的消費者の利便性が失われてしまうデメリットも発生しかねない。
では一体、どうしたらいいのでしょうか。
これは単純明快です。
全て、人は優しくあるべきなのです。
例えば深夜のコンビニで店員の愛想が悪くても、それは体調不良だったり、度重なるワンオペ(1人勤務)で元気がなかったりするかもしれません。
こうした優しい想像力でトラブルは未然に回避出来るのではないでしょうか。
(もちろん、あまりにも度が過ぎている場合は別ですが。)
作者は本書の中でたびたび「お客様の劣化」に頭を悩ませています。
つまりこれはお店側だけの話ではなく、消費者である僕達もまた、意識を変える必要があるということです。
これは加盟店の利益が本部に吸収されまくっていることと同じくらい、本書においてインパクトのある問題提起と言えるのかもしれません。
ご覧のように、トランスの神と崇められているArminも人に親切にすることの重要性を語っております。
そしてブルーハーツは、今から30年前に「人にやさしく」という歌を世に放ちました。
ということで、作者の三宮貞雄さん、今後も逆風に負けず、頑張ってください。
ブルーハーツの歌じゃないけど、、、ガンバレ!って思いました。
*1:殺人鬼。連続殺人犯の意。