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【Rock】Lillies and Remainsの3rdが素晴らしい件

Romanticism

Lillies and Remains「Romanticism」★★★★★


恐るべきロマン主義の権化

これはどのジャンルのアーティストにも言えることだが、3作目というのは必然的に真価が問われる作品でもある。
いわば1st、2ndを経て自らの音楽性の集大成ともいうべき内容が3rdに凝縮されることが望ましい。
と同時に、アーティストとしては今後の方向性を世に提示する絶好の機会でもあり、これはリスナーにとっても極めて重要なプロセスとなる。

かつてBOOWYは「BOOWY」という名を冠した3rdアルバムを発表し、それまでのパンク&ニューウェーブ路線と決別することで新しいJ-Rockの姿を見せつけた。
BUCK-TICKは「TABOO」でビートパンクからの卒業を宣言し、PERSONZは「NO MORE TEARS」でJ-Popとの親和性を唱えた。
その他、THE BLUE HEARTSの3rdはポジパン史に残る名作「TRAIN-TRAIN」であり、UNICORNの「服部」、JUN SKY WALKER(S)の「歩いていこう」も同じく名作の呼び声高い屈指の3rdである。

もちろん、こうした3rdアルバムが本来の目的を果たせず、あえなく失敗に終わることも当然にある。
例えば1stや2ndが売れ過ぎたために、リスナーの期待に応えられなかったこともよくある話だ。(例:MR.BIG「Bump Ahead」)
又は3rdまでは芽が出なかったものの、4thで一気に才能が開花した例もある。(例:MEGADETH「Rust In Peace」)

それでは早速本題に入るが、今回ご紹介するLillies and Remainsの「Romanticism」(2014年発表)は彼らにとって3作目のアルバムであり、間違いなくターニングポイントとなるべき作品と言って過言ではない。
これはSOFT BALLETの藤井氏をプロデューサーとして起用した事実からも想定出来ることだが、これまでの集大成的な意味合いは当然ながら、今後のLillies and Remainsの方向性までも如実に示した作品として大変意義深いものに仕上がっている。


参考:「minus(-)藤井、震災後に建築現場で働くことを選んだ表現者の想い」(CINRA.NET)


気になるその内容だが、甘美なロマン主義に基づいたポストパンクとニューウェーブの応酬であり、邦楽史においてこれほどニューロマンティックな世界観を持ったアルバムは他に見当たらないのではないか、そんな錯覚すら容易に覚える紛うことなき傑作に仕上がっている。
このように結論から申し上げるのは音楽評論としては拙速な行為で誠に申し訳ないが、努めて冷静に事実のみを申し上げるとするならば、2014年邦楽ベストアルバムに本作を推薦することに私の感情は一糸の乱れもない。

まずもって国産のアーティストがこのようなノスタルジックなヨーロピアサウンドを平然と鳴らしていること、それ自体がサプライズに値するのだが、加えて楽曲の品質の高さには舌を巻く。
つまり要所要所に現代的なアレンジを加えることでレトロモダンの真髄を突き詰めた内容とも解釈出来るのだ。
ジャパニーズEBMの礎を築いたSOFT BALLETはもちろんだが、Duran DuranDepeche ModeThe Jesus and Mary ChainCocteau Twins、そしてRideなどUKパンクムーブメント以降のシンセポップ〜シューゲイザー付近を通過してきた私にとって、この手触りは高級なベロア生地のように極めて心地良いものだ。
加えて3作目にも関わらず、生楽器系のバンドが持つ荒削りでソリッドな部分もしっかりと継承しているところは痛快無比そのものであり、このシリアスなインディーズ感には思わず眩暈すら感じてしまう。
彼らがこうした戦法を確信犯的に行っているとするならば、このバンド、いやはや末恐ろしい存在である。


参考:Lillies and Remains - BODY
www.youtube.com




アルバム自体は40分足らずのコンパクトな仕上がりだが、中身の充実度は過去作を遥かに凌駕している。
それは単純に音質が向上しているからという理由のみならず、ソングライティング能力に大きな成長が見られるからだ。
まずはオープニングを飾る「Body」におけるEBM直系の退廃的破壊力に注目したい。
これは藤井氏が本作のプロデューサーの椅子に座ったからこそ生まれた楽曲とも言えるだろう。
EBM、いやインダストリアルの危険な芳香(ノイズ)がじわじわとリスナーのBodyに絡み付いてくる、Lillies and Remainsとしては新境地の1曲だ。
続く「Go Back」の郷愁性たるやNew Order、いやJoy Divisionの如し。
特に、バリトンボイスが炸裂するサビの構成が北欧メタルかと錯覚するような出来映えであり、この時点で本作が傑作であることを強く予感させる。
それを決定付けるかのように、4曲目には本作を代表する名曲「Like The Way We Were」が炸裂する。
アルペジオの粒立ち感とエキゾチックなコード進行が絶妙な疾走感を伴ってリスナーの胸に飛来すること、間違いなし。
地味に唸るベースラインもお見事としか言いようがなく、彼らの美的センスが存分に発揮された作品と言えよう。
その後も同じく刹那的に美しいギターアルペジオと芯のあるボーカルとの対比が絶妙な「Final Cut #2」を経て、シューゲイザー的世界観を実践したインスト曲「Composition V」、そしてボイスアレンジが魅力的な「To The Left」など、アルバムの終盤に向けてビルドアップしていくところは流石である。
そして本作のピークタイムを飾るのは「This City #2」。
すでにアルバム発売前にリリース済みの楽曲だが、#2とあるように、藤井氏の影響下で再生成されたことが一目瞭然である。
冒頭から迸る16ビートのハットの刻みがこれほど気持ち良く聴こえたのは私自身、恐らくPat Methenyの「Last Train Home」以来かもしれない。
終曲「Hopeless-」では一転メジャーコードによるネオアコ風世界観を実践し、まるでEcho & the Bunnymenのようにフィニッシュ。

一言で言えば、隙のないアルバムである。
ボリューム不足は否めないが、その分退屈なシーンが見当たらないのは好印象である。
また、音質の向上というよりは音場の最適化、いわゆるデフラグによって各楽器のサウンドがあるべき位置に収まっていることが本作の評価を数段押し上げたのではないかと思う。
結果的に、バンド自身のソングライティング能力と藤井氏のプロデュース能力が見事に合致し、華麗に奏功したアルバムとなったこと、これは改めて今一度申し上げておきたい。


参考:Lillies and Remains - This City
www.youtube.com



とはいえ、この作品が今の日本のマーケットでどれだけ上位に食い込めるか、正直申し上げて厳しい状況だと思う。
良くも悪くも、全編英語による歌詞はおよそ万人向きとは言い難い。
ただ、Lillies and Remainsはその音楽性や世界観からも容易に推測出来ることだが、彼らは決して市場に媚びようとしていないのだ。
思えばSOFT BALLETにおける藤井氏製作による楽曲同様、限りなく自己表現に徹することで、見方によってはリスナーを突き放している感覚に近い。
職人気質、芸術家肌とも言えなくもないが、結果的にそれが切っ先鋭いエッジとなり、彼らの武器にもなっている。
ただ、欲を言えば、そろそろサービス精神旺盛な楽曲も聴いてみたいのが私の本音でもある。
今後、日本語歌詞によるポップな良曲がリリースされることになれば、例えば旧来のBUCK-TICKファンなどは一斉にLillies and Remainsの虜となるに違いない。
(「悪の華」や「狂った太陽」がお気に入りの方ならすでに虜状態かもしれないが。。。)

www.youtube.com

Romanticism
Lillies and Remains
Romanticism
曲名リスト
1. Body
2. Go Back
3. Sublime Times
4. Like The Way We Were
5. Sigh
6. Final Cut
7. Recover
8. Composition V
9. To The Left
10. This City
11. Hopeless

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Lillies and Remains Official website



最後に、SOFT BALLETの3rdについて言及していなかったので補足しておこう。
SOFT BALLETの3rdアルバムは「愛と平和」(1991年発表)という湾岸戦争時期に製作された作品である。
果たしてその中身は、彼らにとって最高傑作であると同時に、日本のEBM及びシンセポップ界隈の頂点に君臨する作品でもある。
加えて藤井氏の真骨頂とも言うべきダークでメランコリックな楽曲が冒頭から炸裂するアルバムでもあり、これを聴かずして日本、いや世界のエレクトリック・ボディ・ミュージックは語れないはず。
今から24年前の作品とはいえ、この妖艶かつ魅惑的なサウンドを未だ体験していない方がいるならば、今すぐにでも聴いて頂きたいと思う。

なぜなら、そこにLillies and Remainsを読み解くヒントがちりばめられているのだから。。。


愛と平和
SOFT BALLET
愛と平和
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