【Synthwave】Essengerから放たれたシンセウェイヴの矢は、大きな弧を描いてEDMシーンに突き刺さる可能性。1stアルバム「After Dark」レビュー
Essenger「After Dark」★★★★★
2020年2月7日、Essengerがデビューアルバムを発表しました。
すでに当ブログでは、注目すべきアーティストとして紹介済みです。
・一見してサイバーパンクカルチャーをベースにしておりますが、その音楽性はSynthwaveのみならず、ChillstepやElectronica、そしてEDM方面まで守備範囲を広げているのがお分かりかと思います。
・これはThe MidnightやFM-84といった既存のSynthwave勢とは一線を画す個性です。
・実際のところ、DabinやMazare、WRLDといったMonstercat系のアーティストとも交流がありますので、今後、Essengerは思わぬところから注目を浴びる可能性が高いです。
当初から僕は、Essengerに対しては、SynthwaveというよりElectronicなシンパシーを常々感じておりました。
The MidnightやFM-84が、1980年代のバンドカルチャーからの引用が目立っていたことに対し、Essengerはそこへさらなるモダンなアレンジを加えることで、現代のEDMカルチャ-に近接させようとしているのではないでしょうか?
こうしたジャンルの拡大解釈を自然の流れと読むか、それとも突然変異と読むかで彼への印象は変わってくるでしょう。
もちろん、僕はこの流れは自然発作的に起こったことだと認識しています。
少し前に、Trance界隈で著名なAbove & Beyondが自身のラジオ番組「Group Therapy」にて、The Midnightを特集したのを記憶している方も多いかもしれません。
また、「The Midnight Remixed」としてコンパイルされた企画盤には、Lifelike、PROFF、Talamanca、Dezzaなど、Club Music畑のアーティストが多数参加していました。
そこで市場が確認したのは、SynthwaveとDance Musicの親和性です。
これに嗅覚鋭いアメリカ在住のアーティストが、反応しないわけがありません。
Essengerも、そこに活路を見出した1人ではないかと思っています。
そして実際に、本作「After Dark」で両者の親和性を試行しています。
すでに発表済みの楽曲も多いのですが、本作で注目すべきは「Exopolitan」と「Empire Of Steel」でしょうか。
特に「Exopolitan」なんてMonstercatからリリースされても全く違和感がないぐらい、Bass Music然としていますね。
それから「Lost Boys」に至っては、ワンオクっぽいメタルコアなギターサウンドが豪快に鳴り響き、これはこれで新しいチャレンジではないかと思います。
総じてどの曲も、アプローチとしてSynthwaveの要素を上手く活用し、そしてまた世界観の構築にも手抜きが見られないところに、本作の質の高さを実感した次第です。
ともすれば、ジャンルの拡大解釈をEssengerが自ら体現したとも言える本作。
先に紹介した「The Midnight Remixed」における文化的衝突を、本作「After Dark」は追認するように試みた痕跡が各所で散見されます。
これにより、Synthwaveは新たなステージに突入することになるでしょう。
バンド形態のアナロジカルな手法に傾倒したThe Midnightとはまた別のベクトルで、Dance Music、広義でいうところのEDMシーンにも大きな影響を及ぼす可能性が出てきました。
この切っ先鋭いEssengerの放つ矢は、時に大きな弧を描き、EDMに分類されるDJやそのファン達にも続々と突き刺さっていくでしょう。
間違いなく、たぶん、この流れは止まらない。
「もう始まっているからね」