【HR/HM】Yngwie Malmsteenの全作品レビュー(1984~1999)【前編】
Yngwie J. Malmsteen(1963年6月30日生まれ)
僕は物心ついた頃からイングヴェイが大好きだったので、全作レビューみたいなものをね、いつかやりたいと思ってました。
でも、多作な人なので流石に全作レビューはやり過ぎじゃないかと思いまして、今回は前編として2000年に入る手前までの作品を紹介します。
若い子たち、特にギターキッズ(この表現ってもう死語なんだろうか?)の皆様には、ぜひこの機会にチェックしてもらいたいですね。
そしてなぜ日本ではインギー様と、今でも崇め奉られているのか。
その辺の謎にも迫りたいと思います。
ということで、イングヴェイのソロ作品をリリース順にまとめていきます。
- 「Rising Force」★★★★☆(1984年)
- 「Marching Out」★★★☆☆(1985年)
- 「Trilogy」★★★★☆(1986年)
- 「Odyssey」★★★★★(1988年)
- 「Trial By Fire: Live In Leningrad」★★★★★(1989年)
- 「Eclipse」★★★★★(1990年)
- 「Fire And Ice」★★★☆☆(1992年)
- 「The Seventh Sign」★★★★☆(1994年)
- 「Magnum Opus」★★★☆☆(1995年)
- 「Inspiration」★★★★☆(1996年)
- 「Facing The Animal」★★★☆☆(1997年)
- 「Concerto Suite for Electric Guitar and Orchestra in E flat minor Op.1」★★★★☆(1998年)
- 「Alchemy」★★★☆☆(1999年)
- まとめ
「Rising Force」★★★★☆(1984年)
まずはじめに、イングヴェイはいきなりソロキャリアを始めたんじゃなくて、最初はSteeler、その後にAlcatrazzっていうHR/HM系バンドを経ています。
その辺も詳しく紹介したいところですが、イングヴェイ本人が「Steelerの曲は大嫌い!」と明言していることもあるので本稿では割愛します。(「BURRN!」1992年2月号の巻頭インタビューにて確認済。)
さて、この「Rising Force」が彼にとって初のソロアルバムとなるわけですが、やはり歴史を塗り替えたとでも言いましょうか、クラシカルな古典音楽をヘヴィメタルのフィールドに取り込み、独自の解釈でクロスオーバーさせたという点で、当時の市場にも大きなカルチャーショックを与えた衝撃のデビュー作となります。
こうした古典音楽との融和については、Ritchie BlackmoreやUli John Rothをお手本にしていたと思いますが、そのエッヂの効かせ方、つまりモダン・ヘヴィネスへのこだわりは先人を軽く凌駕するものでした。
(そもそも、イングヴェイは「速弾き」の名手としてシーンに登場しましたから、既存ハードロックへのカウンターぐらいの尖り方をしていました。)
そして彼にとっては、その後に代名詞的存在となる名曲が2曲も収録されているのも見逃せません。
それは「Black Star」と「Far Beyond the Sun」なのですが、個人的にはですよ、8分を超える「Icarus' Dream Suite Op. 4」の組曲的な楽曲アレンジが本作のハイライトだと思っています。
ご存知の通り、それまでクラシカルな要素を取り入れたバンドは数多くいましたが、イングヴェイはそこにヘヴィメタルの解釈を取り込んだという点で、ネオ・クラシカル・メタルとも当時は呼ばれていたんですよね。
ギターのフレーズにしても、パガニーニのバイオリンから着想を得たり、先人のギタリストとは明らかに立ち位置が違っていたように記憶しています。
それから、本作のレコーディングメンバーはと言いますと、VocalにはJeff Scott Soto、KeyboardにJens Johansson、そしてDrumにはBarriemore Barlowという実力派を揃えて製作されています。
無論、演奏の質の高さも折り紙付き。
(まあ、音質はそんなに良くないですけど。)
しかし、Vocalの入った楽曲はたった2曲しかないので、Jeff Scott Soto好きの僕としては少々不満が残るところですね。
とはいえ、ギターインストの最高峰「Black Star」や「Far Beyond the Sun」を聴くためだけでも、アルバムごと購入する価値のあった傑作です。
ぜひこの、ネオ・クラシカル・メタルの原点を味わって欲しいと思います。
「Marching Out」★★★☆☆(1985年)
前作「Rising Force」から1年足らずでリリースされた2作目。
前作ではイングヴェイがBassを担当していたのですが、本作からはMarcel Jacobが正式なベーシストとして加入。
また、DrumはAnders Johanssonに交代。
(この人、Keyboard担当Jens Johanssonの実のお兄ちゃんです。)
VocalとKeyboardに変更はありません。
ところで、何故、いちいちレコーディングメンバーの紹介をしていると思いますか?
それはイングヴェイが「絶対的な存在」であるが故に、常にメンバーとのトラブルが絶えず、すぐに決裂してしまうからなのです。
その点で彼は常に孤高の人であり、良くも悪くも、それが歳を重ねるごとにボディブローのように効いてきます。
元々がソロ的なバンド活動ですから「メンバーはただのサポートに過ぎない」という鋼の意思のようなものがイングヴェイの根底にあるんだろうと思います。
それを証拠に、仲違いしたメンバーには辛辣な言葉を吐きまくりますからね。
でも人間的にはとっても、自分に正直な人ですよね?
この辺は後ほどまた詳しく語りたいと思います。
さて、本作が星3つなのは理由がありまして、サウンドプロダクション、つまり音質が非常に悪いんですね。
これも、彼の作品の特徴的な部分ではあるのですが、楽曲は良いのに、音質が悪いせいでとても損をしていることが多い。
特に本作は「I'll See The Light, Tonight」という名曲があるだけに、残念でなりません。
加えて「Disciples of Hell」も隠れた名曲ではないかと僕は思っています。
また、前作よりもVocal入りの曲が増えたことで、ギタリストのソロアルバムにしては大変聴きやすく、しっかりとバンドっぽい雰囲気です。
どちらにせよ、イングヴェイを語る上で重要な作品であることに変わりはなく、本作の延長線上に次作「Trilogy」が存在しているので、どうぞ華麗なスルーはお控えくださいますよう、お願い申し上げます。
「Trilogy」★★★★☆(1986年)
イングヴェイにとっても、最高傑作と名高い本作。
その音質を除けば、僕も異論ありません。
とにかく、楽曲の質が大幅に向上しています。
だってもうこれは、捨て曲が一切見当たりませんから。
失礼を承知で言えば、彼にとっての全盛期とも言えますね。
テクニカルな奏法もピークを極めておりますし、例えばそれは「Trilogy Suite Op: 5」の凄絶なトップスピードのフィンガリングでもご確認頂けるのではないかと思います。
さて、ここにきてVocalはMark Boalsに交代。
ファンの間では、イングヴェイの楽曲と最も相性の良かったVocalとして認識されています。
それから前作に参加していたBassのMarcel Jacobはクビになりました。
金銭問題か何かだったと思いますが、要するにギャラで揉めたのではないでしょうか。
ちなみに、このMarcel Jacobはイングヴェイと同じスウェーデン出身で、元々は友人同士。
残念ながら、2009年に自殺してしまいましたが、せめて仲直りして欲しかったですね。
従いまして、本作のBassは再びイングヴェイ自身が弾いてます。
前述したように、彼は「絶対的な存在」であることを自認しているので、Bassぐらいならサポートメンバーなんて要らないよ、ってところなんでしょう。
当時のインタビューでも「俺の先祖は貴族だ!(=だから敬意を払え)」という発言が印象に残ってまして、確かIron MaidenのBruce Dickinsonにその件でマウント取ろうとしたけど、ろくに相手にされなかったってこともありましたよね?
他人からすると引いてしまうようなことを本気で言ったり、行動に移す人なんです。
イングヴェイってね、本当にお茶目なんですよ。。。
「Odyssey」★★★★★(1988年)
イングヴェイにとって4作目。
僕はこれ、彼の作品で1番好きなアルバムです。
でも悲しいことに、イングヴェイ本人はあまり気に入ってないアルバムなんです。
というのも、本作の製作に入る前、1987年6月22日に彼は交通事故を起こしてしまいます。
これが結構大きな事故で、本人は意識不明の重体になりました。
(街路樹へ衝突した自損事故でした。)
1週間ほどで意識を取り戻しましたが、ステアリングを握っていた右手も無事ではなく、麻痺が残ったような状態になりまして、この事故以降、彼のテクニカルな奏法にも若干の陰りが見られることとなります。
先ほど、前作「Trilogy」が彼の全盛期と表現しましたが、つまりそういうことです。
ちなみに本作「Odyssey」は事故から1年後にはリリースされていますので、ほぼリハビリの状態のままレコーディングに突入したのではないかと推測します。
案の定、イングヴェイのギターには元気がありません。
縦横無尽に、そして正確無比に速弾きしまくっていた前作までとは明らかに毛色が違っておりまして、相当にラフ(雑)で控えめな印象です。
だがしかし、それと引き換えに、本作の楽曲の完成度は素晴らしく高いのです。
これは一体、何故なのか。
実は、本作でVocalがJoe Lynn Turnerに交代したんですけど、イングヴェイの代わりに楽曲のメロディラインやアレンジを勝手に仕上げちゃったそうなんです。
確かに、イングヴェイはリハビリが優先されますから、常にスタジオには篭れませんからね。
つまりイングヴェイ不在の間、Joe Lynn Turnerが穴埋めしていった、というのが本作レコーディングの内情のようです。
その証拠に、例えば「Hold On」や「Now Is The Time」を聴いてみてください。
明らかにJoe Lynn Turner節、要するにRainbowみたいなメロディラインなんですよ。
ここで今一度、イングヴェイのデビュー作のサウンドを思い出してください。
先祖が貴族である彼は、ネオ・クラシカル・メタルの先駆者としてシーンに登場したわけです。
しかし本作だけは、どうにも、時代に逆行するかのような懐古ハードロック的な雰囲気です。
加えて、アメリカでの成功を狙った楽曲「Heaven Tonight」におきましても、まるで人が変わったかのようなハードポップなAOR路線でしたから、当時のファンはびっくりしたのではないかと思います。
ただ僕の場合、Joe Lynn Turnerは大好きなVocalでもあるので、どうしても本作には好意的な評価をしてしまいますね。
イングヴェイのギターに元気がない分、返ってそのせいで楽曲本来の質の高さがクロースアップされたような感じ。
もっと言えばVocalにフォーカスしたことで本当の意味での「バンド作品」になっています。
そう考えると、本作からイングヴェイに触れるのも全然アリではないでしょうか?
最後に、Vocal以外ではBassにBob Daisleyという新メンバーが加入しています。
BobはOzzy Osbourneの初期を支えた実力派でもありますが、参加したのは本作のみ。
楽曲制作やアレンジも出来る人なので、ちょっと惜しい気もしますね。
「Trial By Fire: Live In Leningrad」★★★★★(1989年)
Live盤ですが、こちらも名盤なので紹介します。
まず視界に飛び込んでくるのが、伯爵のような出で立ちのイングヴェイ。
その彼がギターを燃やしている、、、小学生だった当時の僕は、めちゃくちゃカッコ良いと思ってしまいました。
音楽とは関係ありませんが、イングヴェイは2000年前後からめちゃくちゃ太っていくので、ルックス的にもこの時期が全盛期と言って間違いないでしょう。
肝心の中身も素晴らしい選曲と構成、そして演奏も果てしなく高品質です。
サウンドプロダクションも素晴らしくて、ちょっとびっくりしちゃいます。
だって旧ソ連でのライブですよ?
機材などの録音環境がそんなに良かったとは思えないんですよね。
(調べてみると、これにはトリックがありまして、噂ではアフレコじゃないかっていう話も。。。)
僕としてはVocalがJoe Lynn Turnerというのが嬉しくて嬉しくて、このLive盤はイングヴェイ作品の中でも特に愛聴しました。
当時はVHS版もリリースされておりまして、そちらは完全版ともいうべき内容です。
(DVD版として再発されていますが、、、価格に異議アリ。)
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ところで、ジャケの話に戻りますが、ある程度の年齢の方にはお分かりかと思いますが、このギターを燃やすパフォーマンス、、、そうです、ジミヘンですよね。
イングヴェイ自身、最も影響を受けたギタリストはJimi Hendrixであると公言しています。
実際、このLive盤にはアンコールに「Spanish Castle Magic」というカバー曲がクレジットされており、ジミヘン好きであることは疑いようのない事実であります。
これで自信がついたのか、今後の彼の作品ではブルージーな楽曲が増えていきます。
ただ、個人的にはそんなのいらないよ、、、と思ってはいますけどね。
でも彼がやりたい音ですから、ファンとしては黙って見守るのみ、であります。
我々はインギー様の下僕なのですよ。
「Eclipse」★★★★★(1990年)
さて、僕が狂信的に彼を崇拝していたのはこの作品ぐらいまでです。
前作「Odyssey」での教訓を生かし、正真正銘のネオ・クラシカル・メタル路線に戻ってきてくれました。(2曲目「Bedroom Eyes」を除く。)
4曲目の「Motherless Child」なんて素晴らしすぎて何度聴いたか分かりません。
やはり、このVocal、Göran Edmanの存在は大きいです。
他のレコーディングメンバーも総入れ替えしました。
Bassにはチェロ奏者でもあるSvante Henryson、DrumにMichael Von Knorring、KeyboardにMats Olaussonというスタジオミュージシャンを揃え、盤石の布陣。
一貫してコンセプチュアルな音楽性が印象的な本作ですが、こうしてメンバーを同郷でもあるスウェーデン人に固めたのも良かったのかもしれません。
また、過去作に比べ、音質は非常にクリアです。
ただ、少しミドル&ローが弱い感じもあって、イングヴェイに関しては、こうしたサウンドプロダクションにまつわる問題が本当に多いです。
プロデューサーやエンジニアにもっとお金をかけて欲しい、、、というのがファンの本音ではないかと思います。
本作も捨て曲なしの名盤と言えますので、もったいないですよね。
あ、それからプロレスファンにはお馴染み、田上明選手のテーマ曲となった「Eclipse」も収録されているので、この曲をご存知の方も多いと思います。
(実際、日本のオリコンチャートでは11位を記録しました。)
それから、彼の名義も本作からYngwie Malmsteenとなりました。
実は前作までの名義は「Yngwie J. Malmsteen's Rising Force」というもので、つまりRising Forceっていうバンドとしての活動だったんです。
本作「Eclipse」発表の前年にRising Forceの解散がアナウンスされた次第です。
良くも悪くも、これを機にイングヴェイが王者のように君臨していくわけですが、今思えば、バンド名義での活動を継続して欲しかったなと思います。
「Fire And Ice」★★★☆☆(1992年)
もはや説明不要なほど、有名なジャケですよね。
これをカッコ良いと見るか、ダサいと見るか、それはもう人それぞれの主観でありますのでどちらでもいいと思いますが、当時の僕はめちゃくちゃカッコ良いと思ってました。
彼もLiveではこういう姿勢で弾くことが多かったですし、このポーズには違和感を全く感じませんでしたね。
そして本作は日本で最も売れたイングヴェイの作品となります。
何と言いましても、オリコンチャート1位ですから。
一体、当時の日本に何が起こっていたのでしょうか?
ちなみに邦楽では、B'zの「IN THE LIFE」や「Run」、Buck-Tickの「殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits」、そして尾崎豊の「放熱への証」などが1位を奪取していた年でもあり、洋楽ではイングヴェイが唯一の1位獲得でした。
まさに快挙です。
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これも一言で言えば、日本人の哀愁好きなツボに突き刺さったんだと思いますよ。
あと、前作の「Eclipse」の評価が高かったこともあり、発売前から相当に期待された作品だったということも言えるでしょう。
加えて、全14曲+ボートラ1曲というボリュームも彼のソロキャリアでは初めてのことでしたし、レコード会社をElektraに移籍して最初の1枚だったというのも奏功しました。
やっぱり、レーベルもそれだけプロモーションに力を入れてくれますから。
しかし肝心の中身については、実はリリース当初から賛否両論。
このボリュームが逆に仇となっている感じで、各楽曲のコンセプトがバラバラですし、スケール感も小さいんですね。
ミドルテンポの曲も多く、中盤以降、少々退屈に感じてしまったのはきっと僕だけじゃなかったはず。
ギタープレイ的にも、過去のフレーズの使いまわしなどに批判が集まり始めた頃でして、確かにこのソロはどこかで聴いたかな?とデジャヴすることが多々ありました。
従いまして、あまりお勧めしたい曲が見つからないのですが、あえて「Teaser」を推しておきますね。
僕はメタル原理主義者ではないので、こういうのは全く嫌いじゃないです。ハイ。
それから音質はまずまずで、決して悪くないです。
最後に、レコーディングメンバーはDrumにBo Wernerが新加入した以外は、前作と同じ。
(このBo Wernerもスウェーデン出身でした。)
「The Seventh Sign」★★★★☆(1994年)
名曲「Seventh Sign」が収録された7作目。
これまでのジャケに使われた本人の写真は、寄ってもバストアップぐらいでしたが、本作は勢いあまって顔面そのものを持ってきました。
顔ジャケというのはなかなか印象に残るものですから、本作を記憶しているインギーファンも多いことでしょう。
まずは新加入のメンバーとして、VocalにMichael Vesceraを迎えております。
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DrumもMike Terranaに交代しています。
Bassは、、、結局見つからなくて、本作ではまたイングヴェイ本人が弾いてます。
イングヴェイってね、本当にベーシストに恵まれてないんですよ。
本人が弾けちゃうからわざわざ雇うのは金の無駄と思っていたのかもしれませんね。
あと、何かのインタビューで嫌いな音楽ジャンルを聞かれ、彼は"フュージョン"を挙げていたのですが、その理由が「ベースが調子に乗って前に出ようとするから」という話も象徴的なトピックではないかと思います。
彼の迷言、いや名言は本当に面白いので興味のある方は自伝本もお勧めしておきますね。
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さて、アルバム自体は1曲目にスピードトラックが配置され、とっても印象が良いです。
昔からアルバム主義を訴える僕にとって、1曲目の重要性は計り知れないものがあるんです。
そもそも、アルバムっていうのが楽曲群をまとめた集合体ですから、果たしてどういう世界を構築するのか、そういう意味で起承転結の起の部分、つまりオープニングは絶対にスベってはいけないのです。
別にイングヴェイの過去作がスベっているわけではありませんが、本作のようなネオ・クラシカル・メタルの健在を宣言するかのようなオープニングは「Odyssey」以来だったんですよ。
前作もパっとしなかったと僕は思っていましたし。。。
なので、本作の印象は冒頭からすこぶる良いです。
サウンドプロダクションも良好で、この時期のギターサウンドが好きな方も多いはず。
ストラト特有の粒立ち感とディストーションの歪みのバランスが良いですよね。
加えてベースなどLowの締まり具合も良くて、一見してヘヴィネスな印象もあります。
従いまして、お勧めは「Never Die」「Hairtrigger」「Crash and Burn」です。
もちろん「Seventh Sign」は決してスルーしませんように、お願いいたします。
「Magnum Opus」★★★☆☆(1995年)
前作の延長線上にある作品なので、基本的なコンセプト、世界観はよく似ています。
恐らくVocalのMichael Vesceraの影響もあって、世界観も若干ですが、アメリカナイズされた印象が強いです。
イングヴェイ自身もマイアミ在住ですから、その辺の音楽性の変遷は推して知るべし、といったところでしょう。
楽曲もさらにヘヴィネス志向となり、スピード一辺倒のピロピロした感じは随分と減りました。
ここで言うに及ばず、イングヴェイはマンネリの批判をかなり浴びることとなります。
1995年というと、ドイツではRammsteinが華々しくデビューを飾ったり、アメリカではSlipknotが活動を開始しています。
前年の4月にはNirvanaのKurt Cobainが自殺しており、グランジブームにもようやく区切りがついたところでした。
そうした激動のHR/HM界において、イングヴェイの音楽性だけはほとんど変わることがなかったので、内外からマンネリという烙印を押されつつあったのは、誠に恐縮ですが、紛れもない事実と言えるでしょう。
若さで勢いのあった頃は許されたような居丈高な発言も、ちょっと時代の感覚に合わなくなってきた感じは、BURRN!誌などのインタビュー記事でも散見されるところではありました。
とはいえ、名曲「Fire in the Sky」を擁する本作は決して駄作ということはなく、ぜひ前作の「The Seventh Sign」とセットで聴いて欲しいと思います。
ただ、サウンドプロダクションはなぜか前作より少し悪くなっています。
各楽器が分離して聴こえるというか、マスタリング時のバランスに失敗しているのかもしれません。
一応、ProducerはChris Tsangaridesだったので僕は期待していたのですけれども。。。
「Inspiration」★★★★☆(1996年)
アルバムタイトルが示すように、イングヴェイがこれまで影響を受けたアーティストの楽曲をカバーした企画モノ。
これが意外にも、真面目に作られています。
カバーしているバンドはDeep Purple、Rainbow、Scorpions、そしてJimi Hendrixなど、彼が普段からインタビューなどでもリスペクトを公言する大御所ばかりです。
どの楽曲でも相変わらずピロピロと速弾きしまくっていますが、そもそも楽曲の質が良いので安心して聴いていられますね。
また歴代のVocalが結集しており、Jeff Scott Soto、Joe Lynn Turner、Mark Boals、、、これだけでも購入する価値があるのではないでしょうか。
え?前作と前々作のVocalだった、Michael Vesceraがいない?
えっと、彼はですね、イングヴェイの奥さんと寝てクビになりました。
つまり、そういうことです。ハイ。
「Facing The Animal」★★★☆☆(1997年)
記念すべき10枚目のアルバム。
VocalにMats Levén、Drumには何とCozy Powellを迎えました。
加えて、Producerには引き続きChris Tsangaridesを起用。
まずはじめに、今回は音質が非常に良好です。
時代性を反映するかのように、ヘヴィネスな印象も俄然強くなり、バランスも良いです。
各楽曲についてもアレンジが隅々まで行き届いており、なかなか飽きさせません。
理由の1つに、これまで唯我独尊状態だったイングヴェイですが、Cozy PowellとChris Tsangaridesの助言を素直に聞いていたという噂もあります。
やはり目上の存在は大事ですね。。。
ただ個人的にはこのMats LevénのVocalがあまり好きではなく、ヘビロテした記憶もそれほどありません。
高速なメロスピ系楽曲も少ないので、肩透かしを食らった印象が強いです。
ちなみに、リリースされた1997年というのは、確かにHR/HMシーン暗黒の時代とも重なりますので、そう考えると本作の評価は決して低いものではないとも言えます。
「Concerto Suite for Electric Guitar and Orchestra in E flat minor Op.1」★★★★☆(1998年)
かねてよりイングヴェイの夢だった、フルオーケストラとのコラボが実現。
当時、僕も期待して予約購入した記憶が蘇ります。
ただ、中身はバロック調のクラシック一辺倒なので、退屈な人には退屈。
それでも、ネオ・クラシカル・メタルの創始者がやることですから、1つ1つのアレンジに手抜きはなく、組曲としてしっかりと成立しているところに、彼の凄みを感じます。
特にオープニングで「Icarus Dream」を持ってきたのは大正解でした。
1stアルバムからのセレクトなんて、めちゃくちゃ、気合いを感じますもん。
また、交通事故以来、本調子ではなかったギタープレイも回復傾向にあり、オーケストラを率いた本作でも、決してブレることなく縦横無尽に速弾きしまくっています。
ファンとしてはそれでこそ”インギー様”なんですよね。
そもそも、エレキギターが主役となるクラシックのコンサートなんてなかなか見当たらないと思いますし、資料的価値としても非常に意味のある作品ではないかと思います。
お勧めは「Prelude to April」からの「Toccata」です。
彼がLiveにおいて、ずっと前からアコギで弾いていたクラシックの名曲がようやくこうしてアレンジされ、組曲の一部として日の目を見ました。
「Alchemy」★★★☆☆(1999年)
12作目となる本作は、前作でのオーケストラの余韻が残る傑作です。
VocalにはMark Boalsも復帰し、それが楽曲の質感を高めています。
ちなみにレコーディングメンバーですが、BassにBarry Dunaway、DrumにJohn Macaluso、KeyboardにMats Olaussonという布陣です。
あ、Producerはイングヴェイがやってます。
前々作「Facing The Animal」の時に自信を得たのか何なのか、予想に反して、全体のバランスは悪くないです。
肝心のギタープレイも正確無比なフィンガリングに圧倒されます。
確かにマンネリという批判はこの時期になっても受けていましたが、手癖のようなフレーズに関しては、かなり少なくなった印象です。
特に「Wield My Sword」のギタープレイはここ10年ぐらいの集大成じゃないでしょうか?
本人曰く、全盛期のギタープレイを取り戻したのは2002年発表の「Attack!」と明言していますが、いやいや、本作の時点でも交通事故の影響は全く感じさせません。
卓越した技術に裏付けされたギタープレイとマンネリ気味と言われたギターフレーズについては、冷静に分けて考える必要があると思いますね。
まとめ
ひとまず、1999年リリースの作品までを簡単にレビューしてみました。
ご覧の通り、多作な人でして、1980~1990年代においては、ほぼ1年に1枚のアルバムを発表しています。
これがどれだけ驚異的なことなのか、バンド活動の経験がある方はよく分かると思います。
しかしながら、2000年以降はその多作傾向が逆に彼の評価を下げてしまうと言いますか、正直なところ、作品のクオリティ、特にサウンドプロダクションが劣悪を極めていったのはファンとして非常に心苦しいところです。
これは彼のセルフ・プロデュース主義にも原因があります。
解決策は単純明快でして、外部の経験豊富なProducerを雇うだけなんですよ。
それだけで作品の質は明らかに向上します。
(Producerを雇って製作した過去作の出来がその証拠です。)
良くも悪くも、バンド形態での唯我独尊状態は袋小路を彷徨った時に出口が見えづらいのではないかと思います。
2019年時点で、イングヴェイも56歳です。
昔は良かった、なんていう巷の評価を覆すぐらいの傑作をファンは待ち侘びています。
レビュー記事としては大変長くなりましたので、とりあえず、今回はここまで。
(後編は諸般の事情により、なかなか筆が進まないのでいつになるかは未定です。)