【解説】シンセウェイブが提唱する「もしかしたらあり得たかもしれない未来」【Synthwave】
当ブログでも増えてきたのがシンセウェイブ(以下、Synthwave)関連の記事。
管理人の趣味ってのもありますが、この辺で体系的に整理しておきたいと思います。
やや主観が入りますので「そういう考えもあるんだな」程度で流し読みして頂ければ幸いです。
(BGMはこちらをどうぞ。)
発端はNu Disco
さて、Synthwaveを語る前にNu Discoムーブメントについて言及しておかなければなりません。
Nu Discoとはその名の通り、70年代や80年代に一世を風靡したDiscoサウンドを、現代の音楽機材を用いて、尚且つ現代のアレンジで新解釈したダンスミュージックを指します。
分かりやすいところでDaft Punkの存在も無視出来ませんが、彼らがヒットした当時はまだNu Discoという言葉は使われていなかったと思います。
(ディスコというよりエレクトロという言葉で形容されることが多かったDaft Punk)
Nu Discoという名前が市民権を得たのは、恐らく2010年代に入ってからであり、その起点となったのはイギリスの有名コンピ「Hed Kandi」がコンパイルした前後ではないかと思います。(2009年リリース)
確か、、、僕の記憶が正しければ、2007年頃からNu Disco音源がヨーロッパを中心に増え始めて、BeatportやJuno RecordsなどのDJ音源オンラインマーケットでも取り扱いが始まり、やがてそれらをきちんとまとめて世に出したのがこのコンピ(企画盤)でした。
収録曲の中で、特に印象的だったものを2曲挙げてみます。
(Nu Disco職人、Diamond Cutによる珠玉の1曲)
(現在も精力的な活動を続けるLifelikeのエモさが爆発した名Remix)
聴けば何となくお分かり頂けるかと思いますが、かつてのDiscoサウンド(特に80年代)をベースにしていることは明白だろうと思います。
このコンピをきっかけにして世界ではNu Discoがちょとしたブームになるのですが、日本では当時「おしゃれハウス」なるものが流行っておりまして、ご存知「House Nation」シリーズを手掛けていたAvexでもこのジャンルまでは手が回らなかったというのが実情かと思われます。
これについては、Nu DiscoをClubでプレイするDJが国内にほとんどいなかったというのもありますが、今から考えても非常にもったいないですね。
ファッションとも密接な関係を築けるジャンルだけに「機を逸した感」は否めません。
(今になって「U.S.A.」などの80's~90'sカルチャーが流行っておりますが、世界的に見ると少し周回遅れな印象もあります)
それはさておき、当時リリースされたNu Disco系音源はそれこそ名曲が多いので、興味のある方はアーティストやレーベルを頼りに掘り出していくのも楽しい作業ではないかと思います。
(UK出身のCinamon ChasersはNu Discoを語る上で外せません)
(ノルウェーの奇才LindstromはNu Discoを独自の解釈で表現しました)
(スウェーデンのポップアイコン、RobynもNu Discoをいち早く取り入れました)
(UKのプロデューサー、Russ Chimesのクレバーなアレンジセンスは一聴の価値アリ)
(サマソニの常連としても有名なTDCCもNu Discoの生き証人です)
ここで注目したいのは、RobynやTwo Door Cinema Clubなど、PopやRock界隈のアーティストも率先してDiscoサウンドを取り入れていったという事実です。
DJカルチャーがよりポップなフィールドに波及していったという成功例ですね。
これによりNu Discoは拡大解釈が可能となり、ファッション界隈も含めて、瞬く間に裾野が広がっていきました。
最終的にはColdplayまでもがDiscoサウンドを取り入れることとなり、同じくDiscoとRockをクロスオーバーさせたFoster The PeopleやWalk The Moonなどは名実ともにアメリカを代表する若手バンドとして位置付けられたことは記憶にも新しいところです。
(インディーロックとディスコの融合を果たしたWalk The Moon)
同人音楽としてのSynthwave
ひとまず、Nu Discoのお話はこれぐらいにして、本題のSynthwaveについて語りたいと思います。
(2000年代以降、Nu DiscoというDisco回帰ムーブメントが世界で同時多発していたということだけ覚えておいてください)
このNu DiscoがDJカルチャーを飛び越えて、様々な分野に波及していったことは前述した通りですが、このことがSynthwaveの台頭を促したとも言えます。
それはなぜか。
元々、Synthwaveは1980年代の映画やゲームに影響を受けた宅録DTM職人達の憩いの場でした。
日本でもMAD動画というのが一時期ネットで流行りましたが、Synthwaveも同様に、ネットカルチャーの亜種として産声を上げた経緯がありました。
(FM Attackは80年代当時の世界観を再現することにこだわりました)
(Futurecop!も同様に「Back to 80's」がテーマです)
Synthwaveは主にアメリカの西海岸を中心に動きが活発化するのですが、Nu Discoに比べると1980年代のみにフォーカスしていること、そしてFM音源やリバーブを多用して当時の質感を再現していること等の音楽的特徴がありました。
中身はポップで親しみやすいメロディ故に、少々ピンと来ない部分もありますが、ビルボードを賑わすポップカルチャー(例:EDM)に対抗するようなLo-Fiな世界観は、ある種のカウンターカルチャー的な要素も含んでおりました。
(これについてはアメリカ発のインディーロックの急激な盛り上がりにも共通する部分があると思います)
同時期には、かつてのNew WaveやDream Popといった過去のジャンルにインスパイアされたアーティストが次第に増え、21世紀型のSynth Popを模索する動きも加速。
(オーストラリアが誇る異形のSynth Pop集団、太陽の帝国)
(一発屋の名に恥じない高品質なSynth Popを披露したCapital Cities)
ただ、こうしたSynth Popを標榜するアーティストはチャートミュージックをかなり意識した内容となっており、本来のSynthwaveの考え方とは一線を画します。
そもそもが1980年代へのリスペクトとオマージュにあふれたスタイルがSynthwaveですから、その音を聴いた瞬間にかつての80'sな情景が想起されなければ意味がないわけです。
もちろん、この辺はアーティストの考え方にもよりますので、さらに突っ込んだ話は見送りますが、SynthwaveもSynth Popも、お互いに近接しているジャンルということに異論はありません。
(一見、Synthwaveな佇まいでも、DreamwaveやFuture Popと名乗るアーティストも大勢いますので、ここではあえてジャンルの定義はしないことにします)
映画「Drive」はSynthwaveの救世主
さて、Nu DiscoがHed Kandiのコンピを起点にしたように、Synthwaveもブームの起点となるものがありました。
それは映画「Drive」です。
スタントマンと逃がし屋の二つの顔を持つドライバーの姿をクールに描き、欧米の評論家の称賛を浴びたクライム・サスペンス。昼と夜では別の世界に生きる孤独な男が、ある女性への愛のために危険な抗争へと突き進んでいく。メガホンを取ったデンマーク人監督ニコラス・ウィンディング・レフンは、本作で第64回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞。『ブルーバレンタイン』のライアン・ゴズリングと、『17歳の肖像』のキャリー・マリガンの演技派が出演。緊迫感あふれるバイオレンスとフィルム・ノワールのような雰囲気、ジェットコースターのような展開から目が離せない。
すでに観賞済みの方には説明不要ですね。
この作品によってSynthwaveの立ち位置が明確化されたと言っても過言ではありません。
所謂、ネットカルチャーとしてそのまま埋没してしまう恐れもあったジャンルですが、こうして映画として世に輩出されたことで、結果的にSynthwaveの認知度が上がったことは否定出来ません。
まるで救世主的な役割とも言えますね。
ちなみに、この映画の音楽監督を務めたのは1980年代の生き証人、Cliff Martinez(元Red Hot Chili Peppersのドラマー)です。
エンタメ的にはニコラス・ウィンディング・レフン監督の出世作という意味合いもありますが、本作がSynthwave界隈に与えたインパクトは大きく、2011年の公開以降、続々と新進気鋭のアーティストがシーンに登場することになります。
中でも、FM-84とThe Midnightの登場はシーンのクオリティを数段押し上げるほどの魅力を放ち、現在のSynthwaveシーンの立役者と言っても語弊はないかと思いますね。
また同時多発的にヨーロッパの方でもSynthwaveに呼応する動きが発生しました。
代表的なところでTimecop 1983、それからベテラン選手のMitch Murderがそれに該当します。
ちなみに、8bitからSynth Popまで幅広くカバーするMitch Murderについては、自主製作系短編映画「KUNG FURY」への参加が知名度upに一役買いました。
この映画、80年代へのオマージュが凄まじく、クラウドファンディングで出資を募り、Youtubeで無料公開するという流れがとても印象的でした。
驚いたことに、あの名優David Hasselhoffまで引っ張り出したものですから、公開当時のネットの盛り上がりは想像に難くありません。
まだまだ最近の話で、これは2015年の出来事ですが、本作によってSynthwaveの存在は名実ともに保証されたということも言えるでしょう。
(もちろんこの楽曲製作にはMitch Murder自身も関わっています)
代表的な作品
それでは2018年の現時点で、Synthwaveの代表的な作品(アルバム)を挙げておきます。
Bandcampのリンクを貼りますので、購入する場合はそちらからをオススメします。
(リリース年月日などすべて順不同ですが、比較的最近の音源をピックアップしております)
FM-84「Atlas」
The Midnight「Endless Summer」
Timecop 1983「Lovers EP - PART2」
Michael Oakley「California」
いかがでしょうか、、、どれも名曲ばかりです。
初期のSynthwaveに比べると、ノスタルジックな雰囲気だけではない、ちょっとしたレトロフューチャー感が漂っていることもお分かりになるかと思います。
これはSynthwave 2.0とも言うべき現象と僕は捉えておりますが「もしかしたらあり得たかもしれない未来」、つまり1980年代のカルチャーがそのまま廃れずに盛り上がっていたらこんなサウンドかもしれない、というある種の希望に満ちた音塊になっているんですよね。
これはスチームパンクカルチャーにも通じる部分でして、巷によくある懐古主義とは似て非なるものです。
どちらも一見すると古いように見えますが、中身は新鮮な驚きが内包された将来性のあるジャンルということが言えると思います。
(今年も新宿で開催されるスチームパンク展示即売会、STEAM PARK)
※ちなみに、10/7と10/8は僕もスタッフとしてこのイベントをサポートします。
Synthwaveの未来
ということで、やや乱暴な切り口で解説してみましたが、まとめると以下の2点になります。
- Nu Discoの成功=典型的なDiscoリバイバルブーム
- Synthwaveの台頭=1980年代への強烈なオマージュ(カウンター)
最初にNu Discoによる世界的な盛況があり、そのカウンターとして1980年代に焦点を絞って先鋭化していったのがSynthwave、という構図ではないかと僕は考えています。
どちらにしても、Electronic Musicという大きなジャンルの中での話となりますから、歴史的に考えれば、音楽機材の進化がもたらした結果とも言えるでしょう。
特にSynthwaveについては、当初は80年代を完全再現する勢力が多数を占めておりましたが、ここ数年はそこから脱却し、よりポップなフィールドで勝負を賭けるアーティストが増えてきました。(前述した「Synthwave 2.0」の動き)
その音楽性は80年代をルーツとしながらも、現代の作曲技術(サイドチェイン等)も臆することなく使用しているため、現代のPopsとしても品質が保証されています。
加えて、Nu Discoがバンドサウンドと融合していったように、Synthwaveも恐らくその方向にシフトしていくことは十分に考えられますよね。
音楽販売が低迷する今の時代は「興行の時代」でもありますから、これまで自室で制作していたDTMer達が外に出て、Live活動を行う姿も目に浮かびます。
例えば、デジタルなシンセサウンドに生楽器としてギターやサックスが競演する。。。
Synthwaveの未来とは、恐らくそんなところにあるんだろうと思います。
(ヨーロッパツアーも決定し、各地でソールドアウトが続出しているThe Midnightのライブ)
おわりに
引き続き、この界隈の音楽についてはチェックを怠らないようにしたいと思います。
当ブログでもオススメがあればその都度記事にしていきますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。