【J-Pop】CTS、待望のニューアルバム「WAVINESS」最速レビュー
CTS「WAVINESS」★★★★★
謎の覆面3人組、CTSがメジャー移籍後、ついにオリジナルフルアルバムを発表。
結論から申し上げて、本作「WAVINESS」はJ-POP史に残る傑作となる。
まずはこのことを念頭に入れながら、1曲ずつ感想を残しておきたい。
01. WAVINESS
映画「変態仮面 アブノーマルクライシス」のテーマソングで幕を開ける本作。
曲名のWAVINESSとはあまり聞き慣れない言葉だが、これがアルバムのタイトルにもなっている。(直訳すると「うねり」という意味。)
管弦楽的にシネマティックなイントロから一転、YMO的なプリミティブ系シンセが炸裂。
加えて、CTSにとっては初音ミク以来のフューチャリング系楽曲となっており、この曲では南波志帆が安定感抜群の歌唱力で華を添えている。
そもそもが、映画の主題歌という制約のある中で製作された経緯があり、南波志帆とCircleとのボーカルバランス、そしてCメロに代表されるオーケストレーションなアレンジなど、随所においてCTSの音楽に対する真摯な姿勢が垣間見える楽曲に仕上がっている。
02. DREAM ILLUMINATION
2曲目は8th EP(2016年3月18日発売)から、CTSらしいコズミックで煌びやかなシンセフレーズが心地良いHouse調なポップソング。
オープニングを飾った「WAVINESS」では少し意外な側面を見せたが、この曲では一転、これまでのCTSらしいポジティブでエレクトリック全開の世界観だ。
特にサビを含めた静と動の対比が素晴らしく、全体を通して多幸感を内包しているところは流石である。
03. Uplift
新曲。
噂によると、インディーズ時代に発表したアルバム「No Reason」期に製作された楽曲で今回のためにブラッシュアップされたものらしい。
確かにそのストリングスのバッキングの打ち方などは初期CTSを彷彿とさせるものがあり、昔からのファンにとっては懐かしさと新しさが入り混じったような、レトロモダンな感覚を覚えるかもしれない。
この後に登場する「KIRALI KANATA」などと同様に、彼らが得意とするProgressive Trance系楽曲の1つ。
04. 唯我独尊ONLY ONE
6th EP(2014年11月19日発売)からの1曲。
このアルバムの流れをLiveに喩えるなら、ここから一気にCTSワールドへと加速していく流れである。
この曲はCTSのルーツでもあるTrance Musicを前面に押し出した攻撃的なサウンドでもあり、突き抜けていく疾走感と意味深な日本語歌詞とが妖艶に絡むところに、彼らのオリジナリティが存分に発揮されていると言えよう。
05. 全世界NEVER GAME OVER
5th EP(2014年7月30日発売)からの1曲。
前の曲に引き続き、アップテンポでカラフル、一層ポップなダンスナンバー。
本作においては最も速いBPMでもあり、この曲が前半の山場となる。
ギターを使用したイントロ、そしてシンセのフレーズにまとわりつくような日本語歌詞の内容も素晴らしい。
このアナログとデジタルのクロスオーバー感は、所謂J-Popの未来を提示した楽曲、というのは決して言い過ぎではないと思う。
06. Lady
新曲。
CTSとしては珍しい異色なバラードソング。
しかし、これを昨今のEDM的に形容すれば、KygoやMatomaに代表されるような、Tropical Houseの流れを汲んだ楽曲である。
しかし、そこは流石のCTS。
海外のTropical Houseブームを安易にコピーするのではなく、日本的な色彩、例えば後半で口笛のブレイクを挿入するあたりに、ノスタルジックな侘び寂び感を上手く演出しているように思う。
彼らのアレンジ能力の高さを証明した1曲でもある。
07. Plan B
新曲。
何と言っても、イントロのシンセバッキングが素晴らしい。
例えば、TM NETWORKの頃からJ-Popサウンドに親しんできた方にはスっと入り込める敷居の低さ。
コード進行も日本人好みの哀愁的な韻を踏んでおり、ポジティブな歌詞との対比も抜群だ。
本作では先の「Uplift」と並び、アルバム曲として密かな人気を博すことは間違いない。
08. KIRALI KANATA (Album Edit)
6th EP(2014年11月19日発売)からの1曲。
この曲がリリースされた時に、私はCTSの日本での成功を確信するに至ったのだが、こうして装いも新たに今回のアルバムに収録されたことは素直に喜びたい。
古くからのTranceファンにはお馴染み、イビサ系と呼ばれた往年のChicaneを彷彿とさせるバレアリックなサウンドに、切ない日本語歌詞が違和感なく同居するという奇跡的な1曲だ。
アップテンポでダンサンブルなLiveに定評のある彼らだが、このようなバラード系楽曲の良さが自然に評価を底上げしているように思う。
09. 原点回帰 (Original Version)
配信限定シングルとして2015年2月24日に発売された1曲。
今回はアルバムverとして曲の構成、アレンジ、そして歌詞について大幅な変更が加えられている。
曲名が示すように、CTSの原点はClub Musicであり、歌って踊れるエレクトリックなポップスの権化である。
そこにメッセージ性の強い日本語歌詞を前面に押し出すことで、極めてロック的な奥行きを内包するに至ったのだ。
このバランス感覚が絶妙だからこそ、エレクトロなファンにもロックファンにも支持されているんだろうと思う。
これはすでに1年前の楽曲ではあるけれども、改めて対峙することで彼らの原点をここで再確認出来る。
10. The Brave
新曲。
マイナー調のコード展開を擁した、本作で最もアップリフティングな1曲。
Trance界隈ではRemix職人として名を馳せたWippenbergを彷彿とさせるような、まさにUplifting Tranceの塊のような楽曲であり、CTSのClub Musicに対する本気度が窺える内容である。
サイドチェーンが効いたメリハリのあるベースラインに、ユーフォリックなシンセフレーズの展開がとにかく素晴らしい。
しかも英語歌詞とはいえ全く違和感のないVocalが一際華を添えているのは驚異的ですらある。
このような楽曲が邦楽から出てきたことに時代の変化を痛感してしまう。
間違いなく、本作における山場である。
11. Road
新曲。
Major Lazorに代表される昨今のビルボード市場を意識したかのような、変則的なリズムで構成されたバラード系楽曲。
本作はこのように、各曲のBPMにもバラつきがあり、総じてバラエティ豊かな内容となっている。
Vocalを担当するCircleの歌唱力も一段と向上しており、より生身の人間らしい感覚を覚えてしまうのは果たして気のせいだろうか。
ここ数年におけるCTSの成長が手に取るように分かる楽曲でもある。
12. All For One
2015年8月4日に配信されたシングル。
CMでマツダとのタイアップが話題を呼んだ1曲でもある。
相変わらずイントロが秀逸で、この曲を起点に終盤へとヒートアップしていく流れだ。
タイトルに恥じない世界観が魅力的。
13. 千本桜
7th EP(2015年3月25日発売)に収録された初音ミクとのコラボ曲。
今さらここで改めて説明する必要のない楽曲だろう。
以前よりCTSのカバーには確固とした世界観があり、本作も同様に、CTSらしさが全編に漂う内容となっている。
今回のアルバム収録にあたって施されたと思われるマスタリングのおかげで、さらに洗練された印象に仕上がっている。
14. Love The Past, Play The Future
2015年9月25日に配信されたシングル。
そのポジティブでアップリフティングなアレンジは、まさしく本作のエンディングを飾るにふさわしい。
英語ではあるものの、歌詞の内容はCTSならでは。
つくづく、最後までブレないアルバムである。
15. The Key of Life
新曲。
アルバムのラストを飾る、CTSの新境地とも言えるバラード。
前の曲から続く流れが素晴らしく、こうした一連のシークエンスには全く違和感がない。
また、Vocalを務めるCircleによる歌唱力の高さ、そして歌詞の言葉選びも絶妙であり、曲自体は大人しいが、ある意味で本作の沸点とも言える内容だ。
特にヒューマニズムが絶頂に開花した野心作でもあり、これは今後のCTSの未来を予兆するかのような、本作の締めにもふさわしい1曲となっている。
16. Yume Be The Light (Piano Version)
さて、こちらは配信限定曲となっており、残念ながらCDには収録されていない。
しかしながら、CTSの代表曲でもある「Yume Be The Light」がここまで落ち着いた美麗なバラードに化けるとはまさに青天の霹靂である。
元々、メッセージ性の強い歌詞が特徴的なCTSだが、それを象徴するかの如く、素晴らしく高品質なボーカルトラックに仕上がっている。
一見、外見は機械的でデジタルな印象が強い彼らでも、中身はこうしてヒューマニズムの塊であることを自らで証明した格好だ。
この1曲だけでも、ぜひとも多くの方に聴いてもらいたい、見事に贅沢なボーナストラックだ。
以上、駆け足で簡単な感想を残してみたものの、やはり実際に各自の耳で聴いてもらうのが1番だろう。
特に本作における全体の構成は、まるでMix CDのように綺麗な流れに沿って紡がれており、ここにClub Musicを原点とする彼らなりの美学、そして美意識を感じてしまう。
余談になるが、DJに最も必要なスキルは技術や才能ではなく、「構成力」だと私は思っている。
例えば60分というMixの中で、最初から最後まで自分のカラーで説得力のある構成を組み立てられるかどうか。
これは大規模なEDMフェスにしても同じで、ステージ演出含めての「構成力」が問われていることは世界の共通認識だろう。
CTSの今回のアルバムは、各曲のクオリティの高さはもちろんだが、それ以上に全体の「構成力」に言い知れぬ説得力があるのだ。
だからこそ、曲を単体で聴くのではなく、アルバムとして、この曲順で聴いてもらいたいと思う。
そしてこの際、彼らがどんなジャンルを掲げているかなど、細かいことはひとまず横に置いて欲しい。
純粋に音楽に情熱を傾けた姿はこんなにも美しいのだ。
長らく、そういう姿勢はロックやフォーク、そしてメタルの専売特許でもあったが、CTSのメッセージ性の強い姿勢はそこに風穴を開けたと言っても過言ではない。
まさに低迷する国産音楽業界に喝を入れるべく、全突破思考で突き抜けた、本気のCTSの姿がここにある。
言うなれば彼らこそ、J-Popの救世主にふさわしい。
全曲捨て曲なしの本作「WAVINESS」は、名実ともにそれを証明した傑作となった。